2025.12.01

2026年版WADA禁止表の主な変更点について

皆さん、こんにちは。古舘です。
今回は、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の禁止表国際基準についてお伝えします。この禁止表は、公正な競技環境とアスリートの健康を守るため、最新の科学的知見やドーピングの傾向に基づき毎年更新されています(1月1日適用開始)。2026年版では、サプリメントへの混入が確認された未承認物質の追加や、医療技術に関するルールの明確化が行われています。毎年更新されるルールに追いつくのは大変ですが、アスリートやサポートスタッフの皆さんにとって重要な内容となりますので、ぜひご確認頂ければと思います。

※禁止リストの分類記号について
WADAの禁止表では、禁止対象がカテゴリーごとに記号で分類されています。「S」は Substances(物質)を、「M」は Methods(方法)を意味します。さらに、これらは常に禁止されるもの(競技会時・競技会外)と、競技会(時)のみ禁止されるものに大別されます。
詳細は、以下のサイトからご確認ください。
https://www.playtruejapan.org/topics/2025/000747.html

 

〇サプリメントへの混入に対する警告(S4、S6)
今回、特に注目すべき点として、サプリメントへの混入が確認されている以下の未承認物質がリストに明記されました。

S4. ホルモン調節薬および代謝調節薬(常時禁止):
「α-ナフトフラボン」と「BAM15」という2つの合成物質を例として追加。

S6. 興奮薬(競技会時のみ禁止):
「フルモダフィニル」と「フラドラフィニル」モダフィニルなどの類似物質を追加。

これらはいずれも未承認の物質ですが、市販のサプリメントに含まれていることが判明しています。これまでも指摘されていますが、意図しない摂取(うっかりドーピング)を防ぐためにも、サプリメントの使用には最大限の注意が必要です。

 

〇その他の物質の主な変更(S1, S2, S3)

S1. 蛋白同化薬:
禁止物質であるステロイドの「エステル」(化学的形態の一種)も禁止対象であることがより明確にされました。

S2. ペプチドホルモン等:
赤血球の産生を促すEPOの模倣薬として、新たに「ペグモレサチド」が例として追加。

S3. ベータ2作用薬:
サルメテロール(喘息治療薬など)の治療目的を超えるエルゴジェニック効果(運動能力向上効果)を防ぐため、投与間隔が見直されました(1日の最大投与量自体は変更なし)。

 

〇血液操作と遺伝子ドーピングの明確化(M1, M3)

M1. 血液・血液成分の操作:
医療検査やドーピング検査、あるいは認可された施設での献血といった正当な理由を除く、血液や血液成分の「採取」が禁止であることが明確化されました。一方、怪我の治療などで使われるPRP(多血小板血漿)関連の操作(手技)は引き続き禁止となりません。また、一酸化炭素(CO)の「非診断目的」での使用が新たに追加されました。これは、特定の条件下で赤血球を増やす可能性があるためです。ただし、診断目的での使用や、喫煙、排気ガスなど環境由来の摂取は禁止対象とは区別されます。

M3. 遺伝子・細胞ドーピング:
従来の細胞そのもの(正常または遺伝子組み換え)の使用禁止に加え、ミトコンドリアや核といった細胞内の「構成要素」の使用も禁止対象となりました(こちらは医療技術の進歩に伴い不正が巧妙化することへの措置といえます)。

 

〇競技会(時)に禁止される物質とモニタリング

糖質コルチコイド(S9)使用時の注意点
ステロイドの一種である糖質コルチコイドは、炎症を抑えるために広く使われる薬剤ですが、競技会時の使用(注射や経口など特定の投与経路で)を禁止されています。今回、禁止薬物の使用停止から競技会当日までの「ウォッシュアウト期間」(薬物が体外に排出されるまでの目安期間)に関する注意喚起が追加されました。特に、ゆっくりと効果が持続する「徐放性製剤」を使った場合、定められたウォッシュアウト期間を過ぎても体内に薬物が残り、検出される可能性があるため注意が必要です。関節内注射などで徐放性製剤が使われることがあるため、治療を受ける際は、医師とアンチ・ドーピング規則について確認し、相談することが非常に重要です。

モニタリングプログラム
WADAは、将来禁止するかを判断するため、特定の物質の使用を監視しています。2026年版では、糖尿病治療薬などで知られる「セマグルチド」に加え、類似の「チルゼパチド」も監視対象であることが明確化されました。

 

今回の改訂では、サプリメントに起因するドーピング違反のリスクが改めて浮き彫りになりました。アスリートには、自らの体内にあるものすべてに責任を負う「厳格責任」の原則があります。意図しない違反を防ぐためにも、安易なサプリメント等の使用を避け、治療を受ける際にも最新の正しい知識をもって専門家(医師、薬剤師など)に相談することがこれまで以上に重要と考えられます。

以上、今回の内容が少しでも安心で安全な競技生活を送るための一助となれば幸いです。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。

 

古舘

PAGE TOP